アスレチックトレーナー コラム

ネバダ大学ラスベガス校のアスレチックトレーナー学科で学ぶ日本人留学生トレーナーによるコラム

 

POLICE処置

 スポーツの現場では、プレー中の選手が打撲、捻挫などの外傷を受けることがよく起こります。従来はRICE(Rest/Restricted activity; Ice; Compression; Elevation) 処置を使用していましたが、研究を重ねるにつれて、POLICE処置が怪我直後の手当てに適切であると判断されました。POLICE処置とは、このような打撲や捻挫などの外傷を受けた際に行う処置のことです。怪我が発生した直後に適切なPOLICE処置をすることが患部の傷害が深刻化を防いだり、治癒期間を早めることにつながるので、POLICE処置は選手のスポーツの現場復帰を早めるためにもとても重要なものです。

 

 

POLICE処置とは
 POLICEはそれぞれ、以下の処置の頭文字を意味しています。

 

P : Protect (保護)
ヒトの身体は怪我などの傷害を受けるとすぐにその外傷を回復させようとする反応を起こします。患部を安静にする事で損傷部位の脹れや血管・神経の損傷の深刻化を防いだり、患部が新たな2次的傷害を負う危険性を防ぐことができます。痛みを感じない/痛みが強くないからと選手が自己判断をして患部を安静にせず、そのまま練習や試合を続けることで、後により大きな傷害を引き起こす原因となることもあります。


O L : Optimal Loading (適度な運動)
適度な強度の運動を取り入れることで、血液の循環を促します。血液は酸素や栄養素など怪我の修復に必要な分子を運ぶ役割を果たします。また、運動を行うことで筋肉の萎縮を防ぎます。


I : Ice(冷却)
怪我を負った患部を冷却するのは、冷やすことで痛みを減少させること、また血管の収縮を促し患部の腫れや炎症を抑えることが目的です。通常、外傷を負ったらすぐにアイスバッグなどで患部を約20分間冷却します。


C : Compression(圧迫)
弾力性のある包帯などで患部を固定して圧迫し、患部の内出血や腫れを小さくすることを目的とします。圧迫する時は、身体の端から身体の中心、心臓に向かって圧迫していきます。例えば、足首に捻挫を負った場合は、足先から太ももに向かって圧迫をしていきます。圧迫しすぎると循環機能に傷害を与えてしまう可能性があるので、神経や動脈を圧迫していないか確認するため、頻繁に脈拍や皮膚の色、温度などを確認することが大切です。もし脈拍数が下がったり、皮膚の色が青白く変化したら、患部の圧迫が強すぎると判断して圧迫の強度を緩めます。

 

E : Elevation(挙上)
患部を挙上することにより、患部に血液や体液が侵入して腫れが大きくなるのを防ぎます。血液は心臓のポンプ作用、重力によって身体の末端まで送られるので、患部を心臓より高く上げることが挙上の大きなポイントです。足に外傷を受けた場合は、硬すぎないクッションなどを使用して患部を心臓より高く挙げます。

 適切なPOLICE処置をせず、患部の腫れや炎症が深刻化してしまうと、神経や腱などを圧迫して新たな傷害を引き起こしてしまい、患部が治癒してスポーツの現場に戻れる状態になるまでの時間が長くなってしまうことがあります。

 

 

大学の講義で学んだこと

 私がネバダ大学ラスベガス校で受講しているSports Injury Management のクラス(スポーツの現場で起こる外傷やトレーナーとしての役割ついての講義)の講師は、プロのアスレチックトレーナーとしてもスポーツの現場で選手たちをサポートしており、「怪我をした選手のPOLICE処置を早く始めることが、その選手の回復までにかかる期間・日数を変える。スポーツの現場にいるトレーナーは常にその意識をもっていなくてはいけない」とおっしゃっていました。また、私が受講している別のSports Injury Managementのクラス(アスレチックトレーナー学部の学生だけが受講する授業で、アスレチックトレーナーとしての技術や役割について学ぶ講義) では、POLICE処置がどのように怪我をした部分に効果的に働くかを学びました。またラボでは実際にPOLICE処置が必要な状況などを想定した講義が行われ、POLICE処置に必要な手足、肩、腰、太ももなど各部位の圧迫に使用するテープの巻き方や冷却する際のアイスバッグの作り方や注意点などを学んでいます。
 アイスバッグを作る際は、空気が袋の中に入らないようにする為にバッグの中の空気を吸い出してアイスバッグ内を真空状態にします。これはアイスバッグ内に空気が入っていると冷却の際にムラができてしまい、効果が全て均等に行き渡らない為です。患部を冷却するアイスバッグのサイズは冷却部位により異なります。手足の冷却の際には小さめに、また太ももなど大きい部位の冷却には大きいサイズのアイスバッグを作ります。

 患部の腫れを抑える伸縮性のあるタイプのテーピングは、靭帯がある場所などを強く引っ張ってしまうことで靭帯を痛めてしまう可能性があります。クラスではこのようなタイプのテーピングで強く圧迫しすぎて靭帯を損傷させないような処置方法についても教わりました。

 

 大学の講義の中で、実際に患者の立場に立ってPOLICE処置がどのように感じるかを経験できたことはとても良い経験だと感じました。今の研修先ではPOLICE処置を利用し選手の早期回復を目指しています。処置がどのように選手に働くかや、実際に経験した感想などを選手と話すことで、選手にとっても、処置が安心で納得できるものになることも学ぶことができました。

 

総合格闘技ジムでのインターンシップ

 夏学期の期間中、ネバダ大学ラスベガス校の非常勤講師ジェレミー・ハッシ氏の勤務先である総合格闘技ジム『エクストリーム・コーチュア』にてインターン(研修生)として働く機会がありました。夏学期の間はネバダ大学も大学スポーツ活動が休止になり、私が所属している大学アスレチックトレーニングプログラムの活動も行われていないため、アスレチックトレーニングプログラムの学生たちはそれぞれ休暇をとったり、各自でインターンシップに参加するなどしています。
エクストリーム・コーチュアは子供や女性から、世界プロのレベルの選手までが練習に参加しており、各選手お互いに刺激し合う意識がとても高いジムでした。月曜日から金曜日の午後、1日5時間ほど研修を行いました。

 

エクストリーム・コーチュアMMA

エクストリーム・コーチュアは2007年に設立された、15歳以上向けの総合格闘技ジムです。ネバダ州を本拠地とし、ニューヨーク州、コロラド州などにも広がっています。それぞれの施設にエクストリーム・コーチュア独自の戦術をもち、プロのコーチ、スタッフだけでなく、公認アスレチックトレーナーが常に選手のサポートについていることが特徴となっているジムです。

 

ジェレミー・ハッシ氏
ジェレミー・ハッシ氏

格闘技ジムでのトレーナー業務

 エクストリーム・コーチュアの代表者で、アスレチックトレーナーでもあるハッシ氏のもとには、ジムに通う選手たちが練習前にテーピングやストレッチにやってきたり、相談をしに来るなどしており、とても賑やかで忙しそうでした。ハッシ氏は練習が始まると各選手の練習参加の様子を観察して、練習終了後は選手たちが練習中に痛めた箇所の手当やストレッチなどを行います。

 

 私がハッシ氏の周りにいながら気づいたのは、ハッシ氏が選手にテーピングをしている際もストレッチをしている際も常にコミュニケーションをとっていた点です。ハッシ氏はその会話のなかから選手の怪我の様子を聞き取っているようでした。また選手に対して怪我や故障の原因や対策、治療方法やリハビリを行う際の注意点などをとても丁寧にわかりやすく説明を行っていました。選手のたったひとつの怪我でもさまざまな角度から判断してリハビリにつなげたり、対策を立てたりしているように感じました。もちろん、選手の話は、選手自身の身体についての相談が中心ですが、あまり普段話すことのないような相談話も、ハッシ氏にしていました。例えば、家族のことや将来のこと、仕事などについてです。選手と話している際にはアイコンタクトをとり、一人一人の選手に尊敬の念を表し丁寧に対応していました。テーピングをした選手には練習後に今日のテーピング方法について感触を聞き、どのように改善するかなどを振り返っていました。選手の感想によって、次の日にはテーピング方法を変えているのです。選手の状態に合わせて応用できる何種類もの知識と技術の大切さを実感しました。また実際に選手と話してみると、選手は「ハッシ氏になら100%安心して身体を任せられる」と話していました。

 

インターンシップを通して学んだこと
 私はこのインターンシップ期間中に、普段ネバダ大学のアスレチックトレーニングプログラムで学ぶ方法とは別のテーピング施術や怪我の判断方法、また器具の使用方法を学ぶことができました。 大学では教科書を元にしたテーピング方法を学びましたが、ハッシ氏のテーピング方法は、キックやフットワークに重点を置くレスリングでいかに少ないテープで効率的なテーピングをするかを試行錯誤した上でハッシ氏が考えたテーピング方法だといいます。一見、使用が簡単そうに見える治療器具も実際に使用する際には注意点がたくさんありとても難しく、また大きな力が必要だったりと大変に感じることもありました。


 たくさんの知識を持っていることはもちろんのこと、選手との関係性の大切さを彼から深く学ぶことができ、尊敬と信頼を持たれるようなトレーナーを目指していきたいと思いました。今年の夏はこのインターンシップを通してとても良い経験ができ、これからはじまる実習に活かせていければなと思いました。今学期は前学期の大学フットボールとは変わり、高校での研修となります。ハッシ氏から学んだ事を活かし、高校でもたくさんのことを学んでいきたいと考えています。

 

大学講義の指導補佐

私の通っているネバダ大学ラスベガス校の夏学期で、ちょうど私が直前の春学期に受講したSIM150(Sports and Injury Management、スポーツ傷害マネジメント)クラスの、怪我の手当や怪我の評価方法などを行う技術の実技指導を受けるLabパートと呼ばれる部分の指導補佐をさせてもらう機会を得ました。

 

 【指導補佐をさせてもらえた背景】

ネバダ大学では非常に充実した環境でアスレチックトレーニングを勉強する機会に恵まれていると感じています。前学期に失敗をしてそれらを乗り越えていくことで、自分の成長につながることを学びました。その後、積極的に多くの機会にトライするようにしています。

アスレチックトレーナーの任務や活動について日本にもっと広めていったり、日本の大学などの教育機関にアスレチックトレーニングの専攻が増えるように自分が関われたら、とも考えています。

夏学期の前にアスレチックトレーナー副学部長のSamuel教授に自分の将来のプランや希望などについて相談した際に、夏学期に実施される彼女が教えるSIM150クラスの指導補佐の機会を提案していただきました。

 

【講義の指導補佐の内容】

私が指導補佐として担当したのは、クラスを構成する「講義」と「実技指導」のうち、Labパートと呼ばれる「実技指導」の部分で、骨折をした際のギプスを使用した処置の方法や、脊椎を負傷した患者の手当てに使用するSpine Boardと呼ばれる救急担架の使用方法を実際に道具を使いながら学びます。

指導補佐の私は、担当教授の指導を見学しながら学生たちがグループに分かれて実際に道具を使って学ぶ際には各グループを回って見本を見せたり、アドバイスを送る役割を担いました。クラスが進むにつれて、私が実際に教壇に立ってクラスの技術指導を担当することもありました。

 

 

ギプスで患部を固定する練習
ギプスで患部を固定する練習

骨折の部位や損傷の状態により、固定の方法も異なり、適したギプスを選んで固定します。

 

これは右手をギプスで固定したところの写真で、バスケットボールの試合中に負傷した選手の骨折手当を行うというテーマで実習を行ったものです。ギプスで固定する際にアスレチックトレーナーが注意することは、血液循環が妨げられないように強く固定しすぎないこと、また損傷個所の末端から身体の中心に向かって固定していくことです。

 

私が指導補佐をしたこのクラスに参加していた学生たちで、人生で初めてテーピングや包帯を握る人がたくさんいました。私が自分でテーピング施術をする時にはもう当たり前になっているので、教壇で見本として私が学生にテーピング方法を見せた時には意識しなかったのですが、各グループを回って学生に指導した際に、初めてテーピングを扱う学生が多いことに気付いて、テーピングの方向や向きなどの違いを説明するようにしました。

 

 

Spine Boardは患者の向きや状態により判断をし、処置を行います。ここで最も重要なことは患者の頭の位置に来る人がリーダーとして指揮を執り、患者の頭を動かすことなく安全にSpine Boardに移動させることです。これはSpine Boardを使う状況の患者は脊椎に障害がある可能性がある為です。Spine Board に患者を移動した後、写真のようにストラップで固定をします。固定をする際に、頭から足先に向かって順番に固定していくことが重要です。

 

 

 

【大学の講義を教える側に回ってみて】

教えるということは、事前に入念な準備と学生に伝えるための十分な知識が必要だということを学びました。自分でクラスの講義内容の資料を作成したり、技術指導をするなかでも学生たちにしっかりと理解してもらえるように試行錯誤することはとても楽しかったです。

 

初めは緊張してしまって講義内容資料のパワーポイントを見て話すだけになってしまったりもしましたが、回数をこなしていくうちに冗談を言って学生たちとの距離を縮めたり、学生に質問を繰り返して注意を引いたり、学生が覚えられるような語呂合わせを考えて伝えたりと、自分なりの方法で講義に関わっていくことが出来ました。英語が母国語でない私が大学の教壇で講義を教えるということにためらう気持ちもありましたが、実際に挑戦していくなかで徐々に学生が私を頼ってくれるようになったり、日々、自分自身の成長も感じました。また教える側に回って、普段、私が受講している講義を担当している教授たちの大変さも理解することができました。指導補佐の機会は自分の理解を深めるためにも非常に有益で、今後も同じように学生たちを指導する立場にも回る経験を積みたいと考えています。

 

 

筋肉の働き

筋肉について、筋肉の働きについての学習内容は、スポーツ選手を現場でサポートするアスレチックストレーナーにとって欠かすことのできない重要な分野の知識であるため、解剖学、生理学、スポーツ障害のクラスなどアスレチックトレーナーを目指す学生が学ぶ必修科目の各講義で取り上げられています。私が学んでいるネバダ大学ラスベガス校では、特に解剖学、生理学の授業で人体モデルを使用し、実際にどのように筋肉の働きが身体の動きにつながっているかのイメージを掴むことに時間を割いています。

 

ヒトの身体を支えて、骨と関節を動かしている筋肉は、大きく分けて平滑筋・心筋・骨格筋の3つに分けられます。

 

平滑筋

身体の中の臓器にあり、自分の意志で自由に動かすことのできない不随意筋です。血管・消化管・気道などの壁となっている筋肉などで、胃や腸を動かしたり、尿などを運ぶはたらきをします。

 

心筋

心臓周りの大部分を構成し,心臓の収縮と弛緩を行う不随意筋です。

 

骨格筋

骨格についている筋肉のことで、ヒトの体を支え身体を動かす筋肉です。フィットネスクラブなどでウエイトトレーニングを行い鍛えることができるのがこの骨格筋です。大腿筋、大臀筋、腓腹筋など下半身にある骨格筋を一度に鍛えることができるスクワット、上半身の大きな骨格筋である大胸筋を鍛えるベンチプレスなど、骨格筋を鍛える代表的なトレーニングメニューは非常に有名です。

 

1動きの役割

骨格筋の主な働きの一つに、収縮と弛緩を行うことがあげられます。この収縮と弛緩がそれぞれの関節を曲げたり伸ばしたりする役割を果たすので、骨格筋の動きが腕や脚などを動かすヒトの身体の動きにつながります。

 

2姿勢を維持する

ヒトが立っているだけの状態の時も、骨格筋は立っている姿勢を保持するために働いています。イスに座っている時も、座っている身体の姿勢をそのまま保持する役割を果たしています。

ヒトの姿勢を維持する役割を果たす骨格筋が左右や前後の強さのバランスが崩れることで身体に歪みが起こります。

女性に多く起きる傾向がある身体の歪みのひとつである内股は、太もも外側の筋肉を引っ張る中臀筋が弱いために、より強い太ももの内側にある筋肉(内転筋)に引っ張られ、足が内側に曲がって生じる身体の歪みです。

 

3熱を作り出す

体熱の40%は骨格筋が作り出しています。筋肉は使っていないあいだもエネルギーを消費して、体熱を発生させています。周りの気温の低下に伴って体温が下がった時に、身体が震えるのは、骨格筋が震える(収縮する)ことで熱を発生させて体内に閉じ込めて、それ以上の体温の低下を防ごうとする身体を防衛する機能です。

 

4血液を体中に送り込むポンプの役割を果たす

骨格筋が収縮と弛緩を繰り返すことでポンプのような働きをし、血液や体液の体内循環を助けています。

長時間立っている際に貧血などを起こして倒れることがあるのは、骨格筋を動かしていないため血液の循環がうまく行われないためです。


特に手足はヒトの身体の末端で、心臓から最も遠く離れているので、手足まで体液や血液を送り出すために筋肉は重要な役割を果たしています。足の骨格筋が衰えると体液を送る力が十分でなくなってしまうためにむくみが起こります。

 

5内蔵や骨格を保護する

骨格筋は外部の衝撃から骨や内臓などを守るという役割を担っています。転倒した際に、骨格筋が身体を守りますが、その機能がないと骨折してしまったり、身体へ大きなダメージを与えてしまうことになります。

 

 


アスレチックトレーナーにとって、筋肉の役割や働き、起始(筋肉の付着部位のうち、基本的に筋肉が運動しても動かない方)、停止(基本的に筋肉が運動する時に動く方)の動きなどを知っていることは大きなアドバンテージになります。

ネバダ大学ラスベガス校の非常勤講師のハッシ氏も講義の中で、「筋肉の役割について学ぶ学問である解剖学を良く理解することで、故障した選手の患部を診察する時にどの筋肉の負傷なのか、細かく正確に判断することが出来る」と述べていました。またケガをした選手の姿勢や動き、筋肉の強さなどを見ることが傷害を受けた患部の診断に大きく役立ちます。

 

私が所属しているネバダ大学ラスベガス校のアスレチックトレーナー学科では、人体モデルを使ったり、実際に自分や学生同士で各部位の筋肉に触れたりしながら、それぞれの筋肉の付き方や収縮の動きなど、具体的にイメージが出来るようにトレーニングを繰り返しています。

 

熱傷害について

熱傷害とは長時間、高温多湿環境にさらされることによって身体が適応できないことで生じるさまざまな症状の総称のことを指します。熱障害は意識が朦朧としたり意識を失ったり、更に状況が深刻な場合は死に至る危険もあります。そのため、初期症状や早期発見のための知識をつけておくことが必要となります。

 

熱傷害は主に3つの段階に分けることができます。

 

学生アスレチックトレーナーの教材より
学生アスレチックトレーナーの教材より

段階1 熱痙攣(Heat Cramp)

 

運動での発汗によりナトリウムが失われ、それによって筋肉の痙攣が起きます。身体にだるさがみられ、手、ふくらはぎ、足、ふともも、腕などの筋肉に強い収縮が生じます。筋肉は、収縮すると硬くなって緊張し、痛みが生じます。症状が見られた際には、運動を停止し、ナトリウムなどが含まれたスポーツドリンクで水分補給をすることが大切です。

 

段階2 熱疲労(Heat Exhaustion)

高い気温、大量の発汗や、水分補給不足から起きる症状です。脱水のため血流が遅くなり、皮膚は青白く冷たくなります。喉が乾く、身体がだるいと感じたり、脈拍の上昇、頭痛、めまい、吐き気などの症状がみられます。体内の気温が101℉(38℃強)~ 104℉(40℃)にもなります。選手がこの段階に陥った場合は、運動を停止し、涼しい場所に移動させます。足を8~12インチ上げて身体の中心に血液を流すよう促します。アイスバッグで首すじ、脇の下、大腿部の付け根などの大きな血管が通っている部位を冷やします。その状態で脈拍、血圧、体温を測り30分以上同じ状態が続くようなら、医療機関に搬送します。

 

アイス風呂で身体を冷やす
アイス風呂で身体を冷やす

段階3 熱射病(Heat Stroke)

 

熱射病は、高温多湿の環境で運動することにより、体温中枢機能に異常が出て汗をかいて体の熱を放散するということが出来ず、体内の温度が上昇するという危険な状態です。浅く、早い呼吸がみられ、脈拍数が150/分~170まで上昇します。皮膚は乾燥し、赤く変色し、嘔吐、また体温が105℉(40.5℃)以上になります。このような状態まで進行すると非常に危険なので救急車を直ちに呼び、全身を冷ますために氷を張ったアイス風呂に入れるまたは全身に水をかけたり、濡れタオルを当てて身体を冷やします。また、熱疲労の際と同様に首すじ、脇の下、大腿部の付け根などの大きい血管を水やアイスパックで冷やす方法も効果的です。足を高くし、手足を末梢から中心部に向けて血液を流すことも大切です。

例えば遠征先での試合などプレーする環境に適応していないこと、不適切な衣服を身に付けていること、体調不良、医薬品の服用、睡眠や栄養不足なども熱傷害に関わる障害の大きな原因になります。

 

 

熱傷害を防ぐ予防ガイドライン

  • 練習時間:日中の一番暑い時間帯での練習実施は避ける。
  • 水分補給:運動前からなるべく沢山の水分を少しずつ摂取する。運動中はナトリウムなどのふくまれたスポーツドリンクを摂取する。
  • 衣服:風通しのよい素材の練習着・ユニフォームを着用する。
  • 体重測定:練習の前後で体重測定を行う。1パウンドの体重減少は16オウンスの水分の減少を表します。

 

夏場など気温が上がっていくにつれて、熱傷害に陥いる選手が増えてくると思います。選手が熱傷害による症状を起こさないように、早い段階で選手の異常に気付いたり、水分補給を促したり、熱傷害の症状に早期対応することがアスレチックトレーナーとしてとても大切な役割です。私が学んでいるネバダ大学ラスベガス校のフットボール部では選手をサポートするアスレチックトレーナーだけではなく、チームのコーチを含む指導スタッフも選手に給水を促し、脱水症状が起きないようにしています。私たち学生トレーナーは、フットボールの試合時、また練習時に常に水とスポーツドリンクのボトルを運び選手に給水を促しています。

 

万が一、選手が熱傷害の症状に陥ってしまった場合に素早く適切な処置ができるようになるための訓練を積み重ねていきたいと思います。

 

怪我の評価

緊急時の初期評価(AVPU スケール、ABC’s)で生命の危険がないと診断された場合、次に行うのが『怪我の評価』です。怪我の評価には怪我自体の診断に用いられるHOPSと呼ばれる評価方法と、傷害の経過を追っていく評価方法のSOAP Noteの2つの評価方法があります。

 

HOPS

H (History): 病歴、原因の調査 

どこがどのように痛いのか、どうしてそうなったのかを外傷を受けた選手本人に聞きます。

O (Observation): 観察

傷害が疑われる部位の観察を行います。出血、腫れなど、外傷を受けた側とそうでない方、部位の左右比較をして観察します。

P (Palpation): 触診

傷害が疑われる部位を触って、熱、腫れ硬さなどを左右比較します。

S (Special Test): 機能テスト

傷害が疑われる部位、また周辺部の可動域、抵抗力の診断を行います。

-選手が自分で動かして診断する

-トレーナーが動かして診断する

 

-選手が自分で動かし、それに対してトレーナーが抵抗を加えて診断する

 

SOAP Note

SOAP Noteとはアスレティックトレーナーが選手の傷害の情報を入手し、怪我の診断、今後のケアについて考えていくための流れを示すものです。

 

S (Subjective): 主観的な情報を入手する

外傷を受けた選手から痛みの種類や感覚など怪我に関する情報を得ることです。

O (Objective): 客観的な情報を入手する

選手の話す主観的な情報に加え、トレーナーがHOPSを利用して怪我を細かく追求していきます。

A (Assessment): 評価する

主観的、客観的な故障個所についての情報から、考えられる可能性のある傷害を挙げます。

P (Plan): 計画をたてる

今後の治療やリハビリなどの計画を立てます。

 

外傷を受けた選手に対してSOAPの流れに沿って定期的に診断を行い、前回の結果と比較することで回復状態やリハビリの効果などが確認出来ます。怪我の診断やリハビリの計画や選択を間違えることで選手の状態を悪化させてしまう可能性もあるので、十分に注意しながら選手に接することが求められます。

 

 

私が現場で体験した選手の怪我評価の実例

2016年2月に私が在籍するネバダ大学ラスベガス校で行われたバスケットボールの試合中に、選手がリバウンドの際に他の選手との接触がない状態で着地に失敗して左膝が外反して転倒しました。着地の後、選手は自分の力で立ち上がることが出来ませんでした。

 

S (Subjective): 主観的な情報入手

すぐに駆け寄ったトレーナーに選手が着地の際に膝のあたりで何かが切れる音がしたと説明。また選手はこれまでに膝の怪我を経験したことがないとも説明しました。

 

O (Objective): 客観的な情報入手

ケガを下左側の膝に腫れが見られる。機能テストを実施。トレーナーが選手の足を動かしての診断、選手が自分の力で足を動かしての診断。Lachman test(ACL損傷:前方への動きや痛みがある場合は損傷の疑いあり), Valgus test(MCL損傷:後方への動きや痛みがある場合は損傷の疑いあり), Posterior Drawer test(PCL損傷:後方への動きや痛みがある場合は損傷の疑いあり)反応あり。 

 

A (Assessment): 評価

ACL(前十字靭帯),LCL(外側側副靭帯),PCL(膝関節後十字靭帯)の損傷レベル3(完全断裂:腫れ、出血、機能障害、関節不安定が確認される)、半月板損傷の疑い 

 

P (Plan): 計画

患部を冷やした後にACE wrapで圧迫。医療機関でのMRI検査の予約を手配する。医師の診断後に現場復帰までの計画を立てる。復帰までの間に循環器機能を落とさないように膝の力を使用しない有酸素運動を取り入れる。アームバイク30分を1日置きに行う。

 

 

ケガの発生から第6週目で再度、SOAP Noteの流れに沿って選手の患部の状態を評価しました。

S (Subjective): 主観的な情報入手

体重をかけると痛みがある。運動をすると足に痛みがある。

 

O (Objective): 客観的な情報入手

腫れの大きさが引いてきた。選手による足動きの力(4/5) トレーナーによる足の動きの診断(5/5)抵抗を加えた際の足の力(2/5)

 

A (Assessment): 評価

ACL,LCL, PCLの損傷レベル1(微小損傷: 痛み、腫れは微小であり、関節が不安定でない。) 

 

P (Plan): 計画

重りや抵抗を使ったリハビリを開始し、バスケットボールのプレーの動きに近い運動を自体重トレーニングで取り入れる。リハビリ後には患部を冷やす。2週間後に走れるようにすることを目標に設定する。膝の痛みが起きない程度の下半身を使うバイクを利用し、引き続き有酸素運動を行う。

 

 

外傷を受けた選手の怪我の評価は選手を支えるアスレチックトレーナーの仕事のなかでとても重要なものです。私は継続した練習や積み重ねて、怪我をした選手にとって最良のケアを提供出来るようになりたいと考えています。私が学んでいるネバダ大学ラスベガス校のアスレチックトレーナー・プログラムでは選手が怪我をした場面を想定して、トレーナー同士で怪我を評価する練習も行っています。

 

アスレチックトレーナーが注意するケガをした選手の血液、体液の扱い方

OSHA(Occupational Safety and Health Administration、米国労働省の一機関である労働安全衛生局)では、患者や怪我をしたスポーツ選手が血液、体液の病気の感染有無に関わらず、第3者が緊急処置行為、治療行為にあたる際は、何らかの感染者の可能性があることを常に念頭に置くこと、を基本としています。

 

血液や体液は、病原菌やウイルスなどの接触感染媒体となる可能性があり、激しくぶつかり合うコンタクトスポーツの現場では特に、アスレチックトレーナーが外傷を受けた選手の血液、体液に接触しないようにOSHAはアスレチックトレーナーと選手両サイドの為のガイドラインを提供しています。

また、OSHAは万一、血液や体液への接触が起きてしまった時に被害を最小限にとどめる対処法を整備された計画・情報を提示しています。

 

OSHAが提唱する外傷時の対応ガイドライン

  • 出血があった選手は手当てを受けるためにコートから出すこと
  • 医療従事者が血液や体液に触れる際は必ず手袋を装着すること。必要であれば、マスクやアイマスクを装着すること
  • 体液、血液が選手のユニフォームに付着した場合、ユニフォームを即座に代えること
  • 血液の付着したゴミは赤色の血液専用のゴミ箱で処分すること
  • 針・刃物は専用のゴミ箱に捨てること
液状の取り扱い危険物を破棄する容器
液状の取り扱い危険物を破棄する容器

血液や体液に対する知識の学習

私はネバダ大学ラスベガス校のSIM( Sports Injury Management、スポーツ外傷管理)150のクラスで 実際ゴム手袋を使用した怪我の対処方法などを学びました。クラスでは、使用後にゴム手袋を外す際の手の使い方など細かいところまで学び、練習しました。

 

学生スポーツの現場での体験

所属するネバダ大学ラスベガス校の学生アスレチックトレーナーとして大学アメリカンフットボール部の練習に同行した際に、タックルを受けて流血した選手がいました。選手自身は流血に気づいておらず、練習メニューにすぐに戻ろうとしたのですが、私とともに練習に同行していた担当トレーナーがフィールドからすぐに選手を外し、止血、傷口のカバーを行いました。その際にトレーナーはゴム手袋を装着し、止血に使用して選手の血液が付着したガーゼは他のゴミとは別に、赤い色のゴミ袋に分けて保管し、トレーナールームへ戻った後、大学トレーナー室に設置されている血液専用のゴミ箱で処分しました。

刃物の取り扱い危険物を破棄する容器
刃物の取り扱い危険物を破棄する容器

 

ネバダ大学ラスベガス校では写真のように血液や刃物などの取り扱い危険物の廃棄処理容器を準備してあります。廃棄処理容器の使用に関して、血液などの液状のものを廃棄する際は中身が漏れないように密閉することを注意するようにと指導されました。また危険物の廃棄処理容器は備え付けの蓋をして2次感染のリスクを抑えるようにと指導を受けました。

 

アスレチックトレーナーや医療従事者のスポーツ現場においてアスリートだけでなく自分を守ることの大切さを学び、責任感の重さを痛感しました。

緊急時の外傷選手の初期評価について

スポーツ現場において、「緊急時」とは外傷を受けた選手の生命に危険がある状態のことをいいます。事故が起きたスポーツの現場でアスレチックトレーナーが選手を診断する初期評価では、最も初めに選手の意識の状態などから、その選手の生命が危険な状態にあるか否かの確認、判断を行います。

私はネバダ大学ラスベガス校の基礎アスレチックトレーニングSIM 101クラスでこの初期評価について学びました。現在、アスレチックトレーニングクラスSIM 150クラスで更に踏み込んだ細かな点まで学習し、実際にラボのクラスで脈拍の計測方法や呼吸音の違いなどについても学んでいます。

選手の生命に関わる緊急事態が発生した場合、アスレチックトレーナーとして私自身がいかに冷静な判断を出来るかが、とても重要なことになってくると考えています。今後、アスレチックトレーニング実習の回数をこなしていくにつれて、選手の怪我や緊急事態に居合わせることも増えてくると思うので、対応がしっかり出来るように練習、評価の繰り返しを行っていきたいと考えています。

 

意識状態のレベル確認 

AVPU スケール (初期評価指標): 外傷を受けた選手の意識の状態をA、V、P、Uのポイントで評価する

 

-A (Alert): 呼びかけに反応、運動機能があり、完全に意識がある状態

-V (Voice): 呼びかけに何らかの反応がある状態

-P (Painful): 痛みを与えた時に反応がある状態

-U (Unresponsive): 意識がない状態

 

頭位傾斜法
頭位傾斜法

生命の危険性を確認する

•ABC's (A、B、C、と3つのS)のポイントから選手の状態を評価する

 

-A (Airway): 脊髄に傷害がないことが確認済みであれば、頭位傾斜法を用いて気道の確保を行います。脊髄に傷害があることが認識されている、または可能性がある場合には下顎挙上法を使用して気道の確保を行います。

 

下顎拳上法
下顎拳上法

 

脊髄傷害の確認に以下の方法が使用されます。

•上半身、下半身が動くかの確認

•痺れが起きていないかの確認

•感覚反応があるかの確認

•両手に同じ力があるかなどの確認

 

-B (Breathing): 呼吸のリズムや速さ、深さなどを確認して酸素が適度に身体に循環しているかを確認します。また、唇や肌の色が青ざめていることも酸素不足のサインとなります。

 

-C (Circulation): 血圧、脈拍、心拍数など循環器が働いているかの確認

脈絡を測ったり脈絡の強い、弱い、速い、遅いなど血液の循環の確認を行います。

また、肌の色が青ざめていることも循環器が働いてないために起こる酸素不足のサインとなります。

 

-S (Sever bleeding): 大量出血の有無の確認を行う血液は体内に酸素を運ぶ大事な役目を果たします。大量出血は命の危険に大きく関わります。

 

-S (Shock): ショック反応の有無の確認を行います。肌の色や温度でもショック反応の有無を確認することができます。

ショック反応がある場合の例;体温低下、嘔吐、のどの渇き、異常な汗など。

 

-S (Spinal injury): 脊髄傷害の確認を行います。確認には以下の方法が使用されます。

•上半身、下半身が動くかの確認

•痺れが起きていないかの確認

•感覚反応があるかの確認

•両手に同じ力があるかなどの確認 

これらをまずはじめに確認し、1つでも症状が見られれば命の危険がある可能性があると判断して、救急車を呼び外傷選手を病院に運びます。また救急車の到着までの間にAED(自動体外式除細動器)の使用も含めたCPR(心肺蘇生法)の実施、First Aid(応急処置)の実施を行い、症状の悪化を防ぎます。1分1秒が大切になる緊急時の状況では、アスレチックトレーナーに適切な判断と行動が求められます。緊急時に対応するために、EAP(緊急対応計画)を作成したり、緊急時対応の練習をして実際に事故が起きた際に適切な対応ができるように準備をすることが大切です。

 

(写真:アメリカンフットボールの試合中に怪我を負った選手の意識状態などについて確認するアスレチックトレーナー)

アスレチックトレーナー EAP緊急対応計画について

いつ、どんな緊急事態が起こるか想定が出来ないスポーツの現場で活動するアスレチックトレーナーには、どのような状況でも冷静に判断して行動できる能力が求められます。生と死を分けるような場面でも迅速かつ適切な対応が求められ、特に選手が心肺停止などの状況に陥ってしまった場合はアスレチックトレーナーの処置の1分1秒が大切になってきます。

 

緊急事態に対応するためには事前に事故を防ぐしっかりとした対策を立てておくことと、万が一事故が起きた場合の対処方法、対応する環境を整えておくことが重要です。アスレチックトレーナーだけでなく、スタッフ、コーチなどスポーツに関わる人たちも常日頃から緊急事態に対応するための準備をしておく必要があり、その準備として大きな役割を果たすのが、緊急の事態が起こった時にどのように行動すべきかを説明する行動基準のガイドEmergency Action Plan (EAP ; 緊急対応計画)です。各競技それぞれのEAPを一枚の用紙にまとめ、現場に貼っておくことが緊急時に助けとなります。

 

トレーナーが記入して試合会場などに掲載するEAP用紙
トレーナーが記入して試合会場などに掲載するEAP用紙

EAP緊急対応計画に含まれる内容

 

1. 緊急時の役割分担

-CPR(心肺蘇生法)*

AED(自動体外式除細動器)**

First Aid(応急処置)

911の連絡

手当てに必要な器具を入手

救急車の案内、など

2. 緊急時に必要な器具の場所、使い方の把握

3. 緊急時の連絡方法

4. 緊急時の搬送方法

 

 

* CPR(心肺蘇生法)とは心肺停止に陥った人に対する応急対応処置方法のこと

 

** AED(自動体外式除細動器)は突然心臓が正常に拍動できなくなった心停止状態に陥った人に対する処置に使われる医療機器で、心臓に対して電気ショックを行い心臓を正常なリズムに戻すために用いられる

 

EAPを競技に関わるコーチ、チームや大会に関わる役員、緊急時に対応する医療施設、緊急医療の人たちとの間で共有することが大切です。また、選手やマネージャーが緊急時に適切な行動が取れるよう、定期的に怪我や疾病に関する知識や緊急処置に関しての勉強会を行うことも重要です。全米アスレチックトレーナー協会NATAの規定では、EAPの見直しを一年に一度行うことが決められています。

 

写真はNATA臨床アスレチックトレーナーシンポジウム&エキスポで行なわれたCPR(心肺蘇生法)に関するワークショップのものです。ワークショップではスポーツの現場で選手が心肺停止に陥った場合の応急処置CPRについて、またAED(自動体外式除細動器)の使用方法などについて専門の救急隊員や医師を交えて勉強します。

また試合中に脳しんとうを起こした選手の身体の固定の仕方など、トレーナーがスポーツの現場で必要とされる応急処置方法全般にわたり学びます。

この写真は実際にネバダ大学ラスベガス校のキャンパスの各所に貼られているAEDの設置場所を記したものです。このような地図があると、初めて行った場所でも緊急時に迅速に対応することが出来ます。

 

緊急事態が起きた場合に何をしなければならないのかを事前に把握して、習得しておくことで、実際に緊急事態に直面した時に冷静に対応できるようになります。

アスレチックトレーナー ジェレミー・ハッシ氏

ネバダ大学ラスベガス校の留学生トレーナーによるインタビュー

昨年ネバダ大学の非常勤講師ハッシさんのスポーツ解剖に関する授業を受講した際、実際のクリニックやジムでの体験を踏まえて講義をしてくれました。教科書に記載されていない知識や体験談など、彼から学ぶものは多くありました。アスレチックトレーナーとしての活動などについてインタビューさせてもらいました。

 

 

ジェレミー・ハッシ氏
ジェレミー・ハッシ氏

 

トレーナーになろうと思ったきっかけ

私自身が学生時代に陸上競技の選手であった頃、頻繁に怪我を負いアスレチックトレーナーと回復のために関わる機会が多くありました。怪我を負った選手の回復を手助けするというアスレチックトレーナーの仕事に自然と興味を持ちました。

 

 

3つの肩書きを持つアスレチックトレーナー

 

ネバダ大学ラスベガス校の非常勤講師

ネバダ大学で講師として運動生理学、スポーツ傷害などの講義を担当。大学でアスレチックトレーナーを目指す学生たちの指導にあたっています。

 

セレクト・フィジカルセラピー・エリアのスポーツ医学地域取締役

全米に広がっているリハビリテーション提供サービス「セレクト・メディカルブランド」のひとつである「セレクト・フィジカルセラピー・エリア」のスポーツ医学地域取締役として所属するトレーナーや役員スタッフ50名の監督者として、また私自身もトレーナーとして活動しています。これまで組織のトップとしてスタッフを率いる方法や組織の経理等に関わるファイナンスの分野について学んだことがなかったので、実際のトレーナーの仕事よりも取締役としての仕事の大変さを感じています。「セレクト・メディカルブランド」は最先端の技術を提供できるようスタッフやトレーナーに継続教育の機会を提供し、スポーツ業界を牽引する現役スポーツ選手にサポートを提供しています。私がいる「セレクト・フィジカルセラピー・エリア」では手療法、物理学的療法、また傷害防止、管理などを行うスポーツ医学などの広範囲のサービスを提供しています。

 

エクストリーム・コーチュアMMA の代表

エクストリーム・コーチュアは2007年に設立された、15歳以上向けの総合格闘技ジムです。ネバダ州を本拠地とし、ニューヨーク州、コロラド州などにも広がっています。それぞれの施設にエクストリーム・コーチュア独自の戦術をもち、プロのコーチ、スタッフだけでなく、公認アスレチックトレーナーが常に選手のサポートに着いていることが特徴となっているジムです。

セレクト・フィジカルセラピー・エリア
セレクト・フィジカルセラピー・エリア

 

アスレチックトレーナーに必要な素質とは

私が思う良いアスレチックトレーナーとは、選手とだけではなく、医師をはじめとする医療関係者や、理学療法士など自分の仕事に関わる全ての人と良い関係が築けるトレーナーです。また、どのような状況でも落ち着いて効率的に対応する能力も必要です。

 

アスレチックトレーナーになってみて

 

アスレチックトレーナーとして実際に仕事を始めてみると、学ぶ基礎知識を正確に暗記することよりも、実際の現場で動けるかどうかがとても大切だと実感しました。ただし学術的な深い知識も非常に重要で、特に解剖学、生理学を細かいところまでよく理解していることは、アスレチックトレーナーとして働く上で大きな武器となります。解剖学や生理学をよく理解しておけば、ケガをした選手たちの「この動きをしたら、ここが痛む」という情報だけで、傷ついている筋肉や腱などの判断をすることもできます。学術的な知識がケガをした選手を診断する上で大きな助けとなってくれるのです。

 

学校で学ぶ知識はアスレチックトレーナーとして働く上で、最低限知っておかなくてはならない情報です。そして、大学を卒業をしてトレーナーになって現場に出るようになってからも、より実践的なことをたくさん学んできました。スポーツ医学の世界は常に研究が続けられていて、新しい理論や技術が生まれたり、日々発展し続けています。学校を卒業したからといって、トレーナーとしての勉強を終えたわけではありません。常に選手に対して最高のケアを提供したいという気持ちと、それに必要な知識を身に付けたいという気持ちを持ち続けることが大切だと感じています。

 

 

トレーナーとしてやりがいを感じる時

怪我をした選手とともにリハビリなどを進めていき、怪我をする前の完全な状況に戻ってまた競技を楽しんでいるのを見た時に自分の仕事のやりがいを感じます。ケガをして初めに来た時は悲しそうな顔をしていたり泣いていた選手が、リハビリをして回復した後笑顔で練習していたり、報告をしに来てくれることは私自身のやる気の源にもなります。

 

アスレチックトレーナーを目指す学生へのアドバイス

 

素早い判断力、コミュニケーション力そして常に学びたいという意欲を持つことが大切です。自分が学習できる機会は自分の周りに転がっています。その学習機会を無駄にせず、自分の能力にするかどうかはあなた次第です。

 

アメリカの大学で資格取得を目指す日本人アスレチックトレーナー留学生へのアドバイス

 

アスレチックトレーナーは現場で選手とコミュニケーションを取るので、英語の勉強をしっかりすることが重要です。以前、私が研修生トレーナーだった時に日本人の学生アスレチックトレーナーと一緒に活動した経験があります。彼は大学の講義では内容をよく理解していましたが、私から見ると、選手への怪我の説明をする時などに十分にコミュニケーションが取れていないと感じました。アスレチックトレーナーの業務は選手とのコミュニケーションが大きな鍵になるので、早い段階からしっかり英語の学習に打ち込み習得することが大切だと思います。

 

アスレチックトレーナー シンポジウム&エキスポ

毎年6月に全米の大都市が持ち回りで開催都市となる3日間のナショナルアスレチックトレーナーズ協会(NATA)臨床アスレチックトレーナーシンポジウム&エキスポが開催されています。

このイベントでは、350以上の出展者がトレーニングウェアやトレーニング用品や施設関連の製品などを来場するアスレチックトレーナーに向け出展します。アスレチックトレーナーは最新の製品やサービスのサンプル、デモ体験をして、よりよいトレーニング環境作りに活かすことができます。

シンポジウムは午前8時の朝食会から始まり、午後5時まで講演やワークショップ、またその年に活躍したトレーナーの表彰式などが行われます。

 

 

スポーチームだけでなく、学校や病院など、アスレチックトレーナーが活躍している分野は多岐にわたっています。このNATAのシンポジウムにはそれぞれ違う分野で活動するアスレチックトレーナーが集まるため、参加するトレーナー同士で情報交換をすることで、自分のアスレチックトレーナーとしての視野を拡げることもできます。

参加するトレーナーは、エキスポで発表される新しいトレーニング製品などの情報を得るだけでなく、新しいトレーナーを育てるアスレチックトレーナー教育の現状についての情報、トレーナーの雇用機会につながるネットワークを得ることができたり、トレーニング関連の企業やそれらの企業が薦める事業等についても学ぶことができます。シンポジウム期間中は出身大学別の同窓会も行われ、大学卒業後に全米各地で活躍する同窓生が集まって情報交換をしたりと、参加するトレーナーにとって大きな刺激にもなっているようです。

 

 

昨年2015年のナショナルアスレチックトレーナーズ協会(NATA)臨床アスレチックトレーナーシンポジウム&エキスポはミズーリ州セントルイスで行われました。2015年で20周年を迎える女性アスレチックトレーナー活動記念会や今後の活動計画等が発表されました。

また2015年に実施されたアスレチックトレーナー学部卒業学位規定変更に関するプレゼンテーションも行われました。

その他にもシンポジウムでは栄養と回復の関係性についてや安全性に関する講演、また水中でのリハビリに使用するランニングマシーン付き機械や屋外競技練習時の給水に使える新商品などの紹介が各ブースで行われました。

 

2016年の第67回ナショナルアスレチックトレーナーズ協会(NATA)臨床アスレチックトレーナーシンポジウム&エキスポはメリーランド州ボルチモアで6月22ー25日の3日間行われます。NATA会員は$235で、NATA非会員は$525で参加することが出来ます。また、学生トレーナーも参加することが出来、最先端の機械や情報を手に入れる良い機会となっています。(NATA学生会員学生は$99、NATA非会員学生は$180で参加可)

提携機関

アメリカ総合留学